紺碧に沈む藍は何色か
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A5/56P そしかい/和解済み 赤安が旅行に行く話。降谷視点 赤井視点→紅に燃える緋は何色か (本文より) 完璧に磨きあげられたシルバーのカトラリーは、曇りひとつなく、美しく輝いていた。 四人掛けのダイニングテーブルは、控えめだが細やかな職人の気遣いを感じさせるようなレースが施された、清潔な白いクロスに覆われている。 柔らかい焼き色のついた星形のスコーンが、控えめに添えられたクロテッドクリームとブルーベリージャムのコントラストに飾られて行儀よく皿に並ぶ。 透明感のある赤みの茶が、つるりとした陶器の白い地肌に注がれて、六月の庭に僅かに開いた薔薇の蕾を思わせる香気を纏わせていた。 ふわりふわりと漂う湯気に合わせて、空気の色までもが変わっていくようだ。 春の名残が初夏の風にひっそりと混じり、薫る緑をもえたたせている。 本当のことを言うのなら、あの二階にある白いバルコニーで、ゆったりとこの贅沢を味わいたいものだ。 午後から降り出した生憎の雨が、窓の外で、静かな音色を奏でているのでなければ。 「このスコーン、赤井のお手製?」 問えば、正面に座した男は、 「味は保証するよ」 そう言ってから、少しばかり思案気な表情を見せたあと、 「君の気に入るかはともかく」 肩を竦め、そう付け加えた。 思わず小さく笑みが零れて、多分、赤井もそれに気づいたのだろう。 「ん? どうした?」 小首をかしげて、微笑み返してくる。 意外と可愛いところもあるのだ、赤井は。 そして、それを知っているのは俺だけなのだ。 「……期待してるよ」 「批評はお手柔らかに頼む」 「さあ……約束はしかねるな」 口ではそう言ってみせるけれど、赤井の腕前に疑問はない。 (……たまには、文句のひとつくらい言ってやりたいんだけどな) 何しろ、遠慮のない喧嘩ができる相手なんて、赤井くらいのものなのだ。 あまり完璧でいられても……、 (いや、まあ、いいんだけど……) 放っといても、かっこいいだけだ、し。 なんて。 意図せず零れた笑みに、赤井は少しばかり驚いたようだった。 若葉の色をした瞳を瞬かせ、 「そうか」 何気なく呟いた後、 「……そうか」 もう一度言って、嬉しそうに頷いた。 「期待を裏切らないことを祈るよ」 期待をしているのは、赤井の方なのだ。 けれど、どうせ見つめるのなら、指先なんかよりも、もっと。 (一部抜粋)