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月詠雨集/STRAWBERRY MOON月詠雨集/STRAWBERRY MOON

紅に燃える緋は何色か

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A5/56P そしかい/和解済 赤安が旅行に行く話(赤井視点) 降谷視点→紺碧に沈む藍は何色か (本文より)  翳り始めた空を、足の遅い暗雲が行く。  映りの悪いテレビが、雑音交じりの昼のニュースを流していた。  地方訛りの気象予報士が、明日の雨を告げる。 「はぁ……」  重い息が落ちる。  待ち人は来ず、携帯の画面は黒いままだ。  白いローテーブルとソファ、広い暖炉の上に飾られた小さな木馬とミニチュアのログハウス。  機能性よりもインテリアとしての見た目を重視した本棚には、地元のガイドブックと幾つかの週刊誌が並ぶ。  申し訳程度に置かれている話題のミステリ小説は、もう何度も読んだものばかり。  ストーリーもトリックも完璧に覚えてしまっていて、どうにも食指が動かない。  数枚の着替えと必要最低限のものだけを詰めてきた鞄は、廊下の突き当り、自分の寝室に放り出してある。  寝室は二階にもあるが、見事な庭を良く見渡せるその部屋は、降谷君に使って欲しかった。 「……さて」  どうしようか、と思案する。  本当なら、今頃は、降谷君と二人で……。  そんなことを考えていたら、スマホが震えた。  通知を見れば、降谷君からのメッセージ。  内容は、ただ一言、『まだ行けそうにない』。 「……はぁ……」  彼を責めるべきではない。  事件というものは、こちらの意思に関係なく、起きるものだ。  それでも。 「……どうするか……」  まだ行けそうにない、ということは、おそらく彼は何らかの事件に巻き込まれていて、しかも、カタをつける目途は立っていないに違いない。  最悪、休暇自体が潰れるかもしれない……、 (……いや、それならそれで、言ってくるか)  何も言わないのなら、おそらくは、今日中にこちらに着く算段。  だとすれば……、 (……彼のことだ。きっと、無茶をする)  降谷君の、そんな姿を見て、好きになった。  けれど、恋は身勝手、とはよく言ったもので、こうして好きになってしまえば、そんな彼を想像しただけで、胸が痛い。  とはいえ、俺に出来ることはないのだ。  少なくとも、今は。  降谷君自身が俺に助けを求めてこない限りは、彼の仕事には手を出さない。  彼とそう約束したから、俺はFBIを辞めた。 (……そう)  彼の仕事には、手を出さない。  待つことは、得意だったはずだ。 (……信じろ)  信じろ、彼を。 (一部抜粋)

A5/56P そしかい/和解済 赤安が旅行に行く話(赤井視点) 降谷視点→紺碧に沈む藍は何色か (本文より)  翳り始めた空を、足の遅い暗雲が行く。  映りの悪いテレビが、雑音交じりの昼のニュースを流していた。  地方訛りの気象予報士が、明日の雨を告げる。 「はぁ……」  重い息が落ちる。  待ち人は来ず、携帯の画面は黒いままだ。  白いローテーブルとソファ、広い暖炉の上に飾られた小さな木馬とミニチュアのログハウス。  機能性よりもインテリアとしての見た目を重視した本棚には、地元のガイドブックと幾つかの週刊誌が並ぶ。  申し訳程度に置かれている話題のミステリ小説は、もう何度も読んだものばかり。  ストーリーもトリックも完璧に覚えてしまっていて、どうにも食指が動かない。  数枚の着替えと必要最低限のものだけを詰めてきた鞄は、廊下の突き当り、自分の寝室に放り出してある。  寝室は二階にもあるが、見事な庭を良く見渡せるその部屋は、降谷君に使って欲しかった。 「……さて」  どうしようか、と思案する。  本当なら、今頃は、降谷君と二人で……。  そんなことを考えていたら、スマホが震えた。  通知を見れば、降谷君からのメッセージ。  内容は、ただ一言、『まだ行けそうにない』。 「……はぁ……」  彼を責めるべきではない。  事件というものは、こちらの意思に関係なく、起きるものだ。  それでも。 「……どうするか……」  まだ行けそうにない、ということは、おそらく彼は何らかの事件に巻き込まれていて、しかも、カタをつける目途は立っていないに違いない。  最悪、休暇自体が潰れるかもしれない……、 (……いや、それならそれで、言ってくるか)  何も言わないのなら、おそらくは、今日中にこちらに着く算段。  だとすれば……、 (……彼のことだ。きっと、無茶をする)  降谷君の、そんな姿を見て、好きになった。  けれど、恋は身勝手、とはよく言ったもので、こうして好きになってしまえば、そんな彼を想像しただけで、胸が痛い。  とはいえ、俺に出来ることはないのだ。  少なくとも、今は。  降谷君自身が俺に助けを求めてこない限りは、彼の仕事には手を出さない。  彼とそう約束したから、俺はFBIを辞めた。 (……そう)  彼の仕事には、手を出さない。  待つことは、得意だったはずだ。 (……信じろ)  信じろ、彼を。 (一部抜粋)